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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)1888号 判決

控訴人・附帯被控訴人(被告)

有限会社村松商事(旧商号有限会社虎谷)

ほか一名

被控訴人・附帯控訴人(原告)

田代守一郎

主文

本件控訴を棄却する。

附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人らは各自被控訴人に対し、金六〇五万四、八五五円及び内金五六五万四、八五五円に対する昭和四九年四月三日から完済まで、年五分による金員の支払をせよ。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ、これを二分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人の各負担とする。

本判決第二項1及び第三項は、仮に執行することができる。

事実

控訴人ら(附帯被控訴人ら、原審被告ら)は、控訴事件について

原判決中控訴人らの敗訴部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決、附帯控訴事件について附帯控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人(附帯控訴人、原審原告)は控訴事件について控訴棄却の判決、附帯控訴事件について

原判決中附帯控訴人の敗訴部分を取消す。

附帯被控訴人らは各自附帯控訴人に対し、さらに金六八一万八、八五五円(原判決認容額との合計金一、二五九万六、七四六円)及び内金五四一万八、八五五円(同じく合計金一、〇七九万六、七四六円)に対する昭和四九年四月三日から完済まで、年五分の割合による金負を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも附帯被控訴人らの負担とする。

との判決及び第二、三項について仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の陳述は、左記のような補充訂正箇所を除き、すべて原判決事実第二、一ないし四に記載されたとおりであるから、これを引用する。

1  被控訴人の請求原因3の(四)の全文(原判決書五枚目表から六枚目裏まで)を、次のとおり改める。

(四) 被控訴人のサピリア号の受傷による逸失利益 八三七万三、八〇六円

(イ)  一〇箇月間休場したことによる逸失利益 六七七万〇、九一六円

サピリア号は三歳馬として昭和四七年八月二六日初出走以来、同四九年三月二五日までの一九箇月間に、三三回にわたり足利、高崎、宇都宮の各地方競馬に出場し、賞金合計七六六万六、〇〇〇円を獲得した。従つて、出走一回当りの平均賞金額は二三万二、三〇三円となるが、一般に賞金額は馬券の売上高に応じて年々増額されており、昭和四九年度のBクラスの賞金値上げ率は、前年度のそれに比べて五四パーセントから四六パーセントであるから、右平均賞金額は昭和四九年度においては、四六パーセント増の三三万九、一六二円となる計算である。又同年度におけるBクラスの一回当りの出走奨励金は三万二、〇〇〇円、在厩馬手当は五、〇〇〇円であるから、これらを加算すると、出走一回当りの平均収入額は三七万六、一六二円である。

サピリア号は、本件事故のため一〇箇月間の休場を余儀なくされたが、そうでなければこの期間に一八回の出走が可能であつた(本件事故前の一箇月の出場回数は、平均一・七三回であるが、事故に遭つたのが馬体の最盛期の直前であるので、右期間中の出場回数は増加することが推定される。)から、期間中に被控訴人が取得できた金額は、三七万六、一六二円の一八倍の六七七万〇、九一六円である。

(ロ)  能力減退による逸失利益 一六〇万二、八九〇円

サピリア号がレースに再出走したのは昭和五〇年二月一八日で、明六歳馬となつていたから、出走資格限界の八歳馬に達するまでには、合計六〇回(前出一・七三回の三六箇月分)の出走が可能であつたが、本件事故により能力別格付けがB1クラスからC1クラスに格下げになり、そのまま浮上することなく昭和五一年四月二五日を最後に廃馬となつた。そのため賞金もB1クラスのそれより三〇パーセント減少した。又再出走後は一四箇月間に一六回出走し、賞金合計二二八万三、〇〇〇円を獲得したが、これを平均すると一回当り一四万二、六八七円であつて、事故前の平均賞金額二三万二、三〇三円と比べると、前述した賞金値上げ率を無視しても三八パーセント余り減少している。これらのことから、サピリア号は本件事故によつて少くとも三〇パーセントは能力が減退したと推定できる。

右能力減退による逸失利益の総計は、出走一回の収入二三万二、三〇三円に、廃馬になるまでの一四箇月間の本来の出走可能回数二三回(一・七三回の一四倍弱)を乗じた、五三四万二、九六九円の三〇パーセントに当る一六〇万二、八九〇円である。

2  請求原因の末尾(判決書七枚目表六、七行目)の「一、三二一万九、八二五円」を「一、二五九万六、七四六円」と、(同七行目)「一、一四一万九、八二五円」を、「一、〇七九万六、七四六円」と、(同八行目)「翌日」を、「当日」と、「四日」を「三日」とそれぞれ改める。

3  控訴人らの請求原因に対する認否の末尾(判決書八枚目表初行と第二行の間)に、「3 請求原因第3項の事実は争う。」を加える。

4  控訴人らの主張並びに抗弁の1の一〇行目(判決書八枚目裏一行目)の「被告」の前に「同」を加え、同2の一行目(判決書八枚目裏五行目)の「被告車との」を、「被告車と」と改め、同4の冒頭(判決書九枚目裏一行目)の「一年間」を、「一〇箇月間」と改め、同4の五、六、七行目(同五、六、七行目)の「本件馬の」から「誤りである。」までを削り、同4の第一段と第二段の間(判決書九枚目裏第一一行と一〇枚目表初行の間)に、左記のとおり加える。

しかし、右逸失利益を強いて算定するならば、その基準は次のとおりと考える。すなわち、(1)サピリア号が三歳馬及び四歳馬として競走に出場したのは、昭和四七年八月二六日から翌四八年一〇月一〇日までの約一四箇月間で、回数は二三回、獲得した賞金の総額は六六九万五、〇〇〇円であるから、一箇月当り四七万八、〇〇〇円、一競走当り二九万一、〇〇〇円となる。(2)同馬は四歳の秋にB格付けされ、昭和四八年一一月三日から翌四九年三月二五日までの五箇月間に九回出走し、獲得賞金総額は九七万一、〇〇〇円であるから、一箇月当り一九万四、二〇〇円、一競走当り一〇万八、〇〇〇円となつて、三、四歳馬当時に比べ激減している。(3)更に、昭和五〇年二月一八日から翌五一年一月三一日までの一二箇月間に、C格付けで一一回出走し、獲得賞金総額は二二八万三、〇〇〇円であるから、一箇月当り一九万円、一競走当り二〇万七、〇〇〇円となる。(4)右(1)ないし(3)の事実から逸失利益を算定するならば、サピリア号がもはや四歳馬に戻ることはないため、B格付けで出走しえたものとして、B格付けの期間における現実の獲得賞金額をもつて算定の基準とするのが正しく、被控訴人の論拠は誤つている。

同6の三行目(原判決書一〇枚目裏二行目)の「有する」を「存する」と改める。

(証拠)

当事者双方の証拠の提出援用認否は、被控訴人が甲第二七ないし三〇号証の各一、二を提出し、乙第五号証の一ないし四、第六、第七号証の各成立を認めると述べ、控訴人らが乙第五号証の一ないし四、第六、第七号証を提出し、証人清水敏男の証言を援用し、甲第二七ないし三〇号証の各一、二の成立を認めると述べたほか、すべて原判決事実第三摘示のとおりであるから、その記載(但し、一の3の一行目(判決書一一枚目裏七行目)の「一・二の成立」を、「一・二が原告車の写真であること」と、二の2(同一二枚目表一行目)の「被告本人」を、「被告村松本人」とそれぞれ改め、同3の一行目(同表二行目)の「一二号証」の次に、「の成立及び」を加え、同二行目(同表三行目)の「一・二の成立は」を、「一・二がそれぞれ被告車及びサピリア号の写真であることを」と改める。)を引用する。

理由

請求原因事実のうち、被控訴人主張の交通事故の発生とその態様及び被害状況(1、(一)ないし(六))、事故発生に寄与した控訴人村松の過失と車両運行供用者及び使用者としての控訴人会社の責任(2)並びに被控訴人の損害中被控訴人自身の診療費、原告車の修理費及び本件競走馬サピリア号の診療費の各金額(3、(一)ないし(三))に関する当裁判所の事実認定と判断は、以上の諸点に関する原判決の説示とほぼ同一であるから、原判決理由一、二、三及び四の1、2、3の記載(判決書一二枚目表六行目から一七枚目表五行目まで。但し、二の本文一、二行目(判決書一二枚目裏四、五行目)の「サピリア号の輸送に当り」を、「その所有するサピリア号を原告車に積載して輸送中であつたところ」と改め、二の末段五行目(同一三枚目裏五行目)の「進行し」の次に「た過失により」を加え、同九行目(同裏九行目)の「補償法」を「保障法」と、判決書一三枚目裏末行の「二」を「三」と、同一六枚目表二行目の「三」を「四」と、それぞれ訂正する。又、判決書一三枚目裏末行、一四枚目表一行目、同表五、六行目、同表七行目、同裏八行目、一六枚目表一行目の各「被告」を、「被告ら」と改め、四、1の本文二、三行目(同一六枚目表五、六行目)の「打撲撲症」を、「打撲症につき」と改め、同三行目(同表六行目)の「外科」の次に、「医院」を加え、四、2の本文二行目(同表末行)の「本件事故後」を、「本件事故により原告車は車体の左右両側に損傷を受けたので」と改める。更に、四、3の本文五、六、七行目(判決書一六枚目裏九、一〇、一一行目)の「競争馬の経験も長く」から「その治療を」までを、「競走馬の診療経験が長く、これまで被控訴人の持馬は何頭も治療を受けていたので、同獣医師の往診を」と改め、別紙診療費明細表(判決書二四枚目)一行目の「医師名」を「獣医師名」と改める。)を引用する。

次に、サピリア号受傷による被控訴人の逸失利益(請求原因3、(四))について検討するが、先ず、原判決理由四、4、(一)、(イ)ないし(リ)に判示された認定事実は、おおむね当裁判所の認定事実と同一であるから、原判決書の該当部分の記載(一七枚目表八行目から一九枚目表初行まで)を、左記のように訂正した上引用する。

(一)の前文冒頭「一二号証」(判決書一七枚目表八行目)の次に、「甲第二八号証の一、二、乙第五号証の一ないし四、」を加え、同所「証人増淵陽の」を、「証人増淵陽、清水敏男の各」と改める。

(ニ)の「競争馬」(一七枚目裏一〇行目)を「競走馬」と改め、「の制限」(同所)を削除する。

(ホ)の冒頭「年四一回」(一七枚目裏末行)を、「昭和四九年度は年三六回」と、同所の「競争馬」を、「競走馬」とそれぞれ改め、五行目(一八枚目表四行目)「ところで」以下段落までを削除する。

(ヘ)の一行目及び(ト)の一行目(一八枚目表八行目及び表一〇行目)の各「競争馬」を「競走馬」と改め、同二行目「一階級」(一八枚目表末行)を、「一格」と改める。

(リ)の全文(一八枚目裏七行目から一九枚目表初行まで)を、次のように改める。

競走馬の馬主は、持馬をレースに出走させると、賞金とは別に出走奨励金を受取るが、その金額は、宇都宮競馬の昭和四九年度の場合、サラブレツド系B1クラスの馬に対し、出走一回について三二、〇〇〇円であり、このほか在厩馬手当も支給され、その金額は五、〇〇〇円であつた。

以上の認定事実に基づいて、逸失利益の算定に入ることとするが、その算定方法については、当裁判所も原判決の判示するところとほぼ同じ見解であるので、原判決理由四、4、(二)、(三)、(四)の記載(判決書一九枚目表二行目から二二枚目表五行目まで)を、左記のように訂正した上引用する。

(二)の一行目及び六行目(判決書一九枚目表二行目及び七行目)の各「被告」を、「被告ら」と、同二行目「賞品」(同表三行目)を、「賞金」と、同六行目「馬登録」(同七行目)を、「馬登録証」と、同一四行目「のみであるから」(同裏四行目)を、「のみであることが認められるから」と、それぞれ改める。

(三)の第一段末尾「一ケ月間の」(二〇枚目裏末行)の次に、「平均」を挿入し、同段落部分「ことが推定される。」(二一枚目表二、三行目)を、「ことになる。」と改める。

(四)の本文全部を次のように改める。

(三)で述べたとおり、事故前の実情に基づいて獲得賞金額を推計することは可能であるところ、先ず、事故前の賞金総額七六六万六、〇〇〇円を出走回数三三(前記4、(一)、(ロ))で除すると、一回について平均二三万二、三〇三円(a)となる。

しかし、前出甲第二八号証の一、二と成立に争いのない甲第二七、二九号証の各一、二によれば、宇都宮競馬の場合、昭和四八年度第一回競馬におけるサラブレツド系B1クラスの一着から五着までの賞金の合計額と、昭和四九年度第一回のそれとを比較すると、後者が一・四六倍であり、昭和五〇年度第一回のそれとを比較すると、後者が一・六一倍に達していることが認められ、足利競馬、高崎競馬の場合も或る程度の増加があつたものと推測される。この点を考慮すれば、サピリア号休場期間(昭和四九年四月から昭和五〇年一月まで)中の北関東競馬の賞金額は、休場前に比べ、少くとも一・三倍に達したと認めて差支えないから、前段の(a)金額に一・三を乗ずると、出走一回について平均三〇万一、九九四円(b)となる。

一方、成立に争いのない乙第六、七号証、証人清水敏男の証言によると、一般に、馬主の受取る賞金のうち二割相当の金額が、進上金の名目で調教師、騎手、厩務員に割譲されるのが、競馬関係者間の慣例であることが認められるので、被控訴人の取得賞金からも進上金該当分を控除するのが相当であり、前段(b)金額からその二割を控除すると、差額は二四万一、五九五円(c)である。

馬主の取得する出走奨励金及び在厩馬手当については、すでに認定した(前記4、(一)、(リ))から、前段の(c)金額にこれらを加えると二七万八、五九五円(d)であり、これが出走一回について被控訴人の取得する利益ということになる。

右(d)金額を一七倍した四七三万六、一一五円が、サピリア号休場により被控訴人が逸失した利益である。

次に、慰藉料及び弁護士費用(請求原因3、(五)、(六))についての当裁判所の判断は、原判決の説示するところと同一であるから、原判決理由四、5、6の記載(判決書二二枚目表六行目から同裏八行目まで。但し、二二枚目裏五行目の「困難性よりは」を、「困難な事件については」と改める。)を引用する。

以上を要約すると、控訴人らが各自被控訴人に支払うべき損害賠償金は、理由四、1、2 3、4 6に説示した金額の合計六〇五万四、八五五円と、このうち6の金額を除いた五七五万四、八五五円に対する事故の当日の昭和四九年四月三日以降完済までの、民法所定年五分の利率による金員(遅延損害金)である。従つて、被控訴人の本訴請求は右の範囲で正当であり、その余は失当といわなければならない。

よつて、右と一部結論を異にする原判決を、附帯控訴に基づいて右の限度に変更し、控訴人らの控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉岡進 吉江清景 上杉晴一郎)

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